中京テレビ

2017年11月12日 17時13分

秋の日の後悔

ある秋晴れの午前中、ほとんど車の通らない家の近所の裏路地を

マイカーでそろそろと走っていたら、

30メートルほど前方の舗装された道路のほぼ真ん中にカマキリがいるのが見えた。

明るい日差しの中、その悠々と立ち上がった姿の影がくっきりと路上に映り

軽く鎌をもたげているのもはっきりと分かった。

私は、運転席側の車輪で轢いてしまわないように少しハンドルを右に切って

カマキリを車の真下にやり過ごす格好で通り過ぎた。

 

今思うと、私は子供の頃からカマキリやタツノオトシゴといった

形がいびつで複雑な生き物が好きだった。

でも色がカラフルなものはあまり好きではなく、むしろ気味悪くさえ感じる。

そういう訳でジョロウグモなどは大嫌いだ。

数年前、このジョロウグモが30㎡ほどの自宅の小さな庭に何匹も発生して

困ったことがあった。ここで洗濯物を干したり野菜を作っていたのだが、

いちいちクモをよけて移動する羽目になったのだ。

きっと毒は無いと思うが刺されたり噛まれたり、

もしかしたら、恐々とチラ見している私の目に毒を吹きかけたりするんじゃないかと

勝手に思ってしまう。その状況を想像するだけで尻の穴がキュンとなってしまう。

 

数年前のある秋の終わり、こんなことがあった。

取材に行った雑木林で木の枝に産み付けられたカマキリの卵を見つけたのだ。

辺りを見回すと、古くなり固くなった乾いたスポンジのような物体が

地面から50センチほどの高さであちこちの枯れ枝にくっついているではないか。

中には春先孵化するのを待っている幼虫がいるのだろう。

 

そういえば、小学生の頃ワクワクしながら、

卵からカマキリの子供が孵るのを飽きもせずにじっとながめたことを思い出した。

体調7ミリ程の赤ん坊のくせに、

形は大人と一緒で、手はすでに鎌の形になっているのに妙に感心したものだ。

そんな奴らが何百匹も、うようよと生まれてくる様子に異様に興奮したっけなあ。

 

雑木林でそんなことを思い出した時、一つのアイデアが浮かんだのだ。

そうだカマキリはクモの天敵だ。

この卵を庭に配置したらクモがいなくなるんじゃないか?!

私は見つけた7,8個のカマキリの卵を枝ごと折って家に持ち帰り、

庭のあちこちに突き刺して春を待った。

「カマキリ部隊投入大作戦」開始だ!!

次の年の5月頃だったと思う。

いた!ブロック塀の上に1匹、2匹。木の上にもまた1匹、2匹。

良く見ると小さな私の援軍が庭のあちこちで、

ピョコンピョコンと動き回っているではないか。

でも小さいうちにクモや他の虫に食われたり、共食い?!をして、

この中で成虫になれるのはほんの数匹だろうな。

これからが作戦の本番、みんな~おじさんのために頑張ってくれ!!

 

やがて夏が訪れる頃、生き残って二回りほど大きくなった数匹のカマキリを見て

私は作戦の成功を確信した。

今年は、あのいやらしいまでに鮮やかで

イヒヒと気味悪く笑いかけてくる奴らをまだ見かけていないのだ。

これで刺されることも、目に毒を吹きかけられることもない。

尻の穴もキュンとならずにすむ。

この数年悩まされていた夏の恒例の恐怖から解放されたのだ。

 

車を運転していた私は

「あの時はカマキリに助けてもらったなあ」などと思いながら、

表通りの信号で止まった時、

そうだ!あいつを拾って帰って庭に放してやろう。

あのままじゃ、車に轢かれてしまうかもしれないと思い直し

奴を見つけた場所に急いで戻った。

数分後、さっきと変わらぬ明るい日差しの中、

手の鎌をもたげた悠々とした奴の姿の影は、路上に映っていなかった。

代わりに、近くまで行って見えたのは

半分つぶれた状態で息絶えている奴の無残な姿だった。

かわいそうに遅かったか,轢いた車は気づきもしていないのだろうなと思いながら、

車を路肩に寄せてしばらくその場にいたがその後も車は1台も通らない。

「・・えっ! ・・もしかして、俺?!」

私、恩を仇で返してしまったようです。

ごめんなさい。もう少し注意深くよけていれば・・・

悪いことをしたなあと本当に反省しながらも

ああ、これが人じゃなくて良かったと思ったのも本心でした。

カマキリ君ごめんなさい。