中京テレビ

2017年12月06日 18時09分

ちょっと気まずい昔話

中京テレビの社屋がまだ昭和区の八事にあった頃のちょっと気まずい話。

用を足そうと手洗い所のドアを開けて中に入ると、

同年代の他部署の男性が洗面台で手を洗っていた。

鏡越しの彼に会釈をするともなく、

迂闊な僕は何も考えずに、二つある個室の一つに足早に入りドアを閉めた。

「バタン!ガチャ」

しかし次の瞬間、僕の視覚と聴覚は

自分が無意識に行った2分の1のギャンブルに負けたことを悟らせた。

使用後にタンクに水が補給されたあとも

便器の中をチョロチョロと流れるごく少量の水と音。

さらに、やや遅れて臭覚で得た目に見えない、だが確固たる状況証拠も加わって

明らかに、たった今使い終わったことが立証された。

きっと手を洗っている彼は、僕の入った個室のドアを

鏡越しに後ろめたそうに眺めているだろう。いや、そうに違いない。

他に誰もいない二人だけの空間に、気まずい空気が立ち込めた。

「・・・・・・・・・・・・」

これも運命かと一度は腹をくくろうと思ったが、状況はどうにも受け入れがたかった。

数十秒後、蛇口を閉める音に続いて人が出て行く気配を感じ取ると同時に

「今だ!」

息を殺していた僕は下げかけたズボンを押さえながら素早く隣の個室に移動した。

「ふうー、ミッション成功」などと言いながら

なぜか彼に罪悪感を感じつつ用を足している僕。

その数分間に一人来場者があり、再び洗面台を使う音が聞こえてきた。

「キュッ!ジャー、ゴシゴシ」

この人は入ってきて直ぐなので、

排泄ではなく、手にインクでも付けたか何かで洗いに来たのだろう。

そんなことを考えながら一仕事終えてすっきりした僕は

個室のドアを開けて立ち尽くした。

そこにいたのは、他部署のさっきの男性だった。

まるで親の目を盗んで悪さをする少年のように個室を変わった僕。

そして、知りたくもなかったその事実を突きつけられてしまった彼。

丸めた背中の向こうの鏡の中で、上目遣いの彼と目があった瞬間、

さっきの20倍は空気が気まずくなった。

神様は何と残酷なドラマを用意してくれたことか・・・。

もはや二人に交わす言葉は無かった。

「・・・・・・・・」

今でもあの時の事を時々思い出すが、

あれはどっちの方がより恥ずかしかったのだろうかと考えてしまう。