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19歳で起業した「寝たきり社長」伝えた“働く意味”

報道局・サイバー戦略班
愛知特集 2018/5/15 14:00

 愛知県東海市のあるアパートの1室。部屋には静かにクリック音が響き、モニター上には着実に文字が打ち込まれていきます。

 佐藤仙務さん26歳。WEBサイトや企業向けアプリなどを制作する「仙拓」を経営する“寝たきり社長”として知られています。創業7年、順調に売り上げを伸ばしているといいます。

 進行性の難病を患う佐藤さん。動かせるのは目や口、そして指先のみです。

スピーディーな仕事を可能にしたもの

 佐藤さんの職場を、取引先の2人が訪ねて来ました。

取引先:
「ワードプレスのプラグインで使うと言えばメールのフォームのところと…」

佐藤さん:
「発注するような場合データベースで残ったほうが…」

 始まったのは、商談でした。制作するWEBサイトの設計も、佐藤さんの仕事のひとつです。

株式会社ネットコム 渡会宏明 社長:
「(Q.佐藤さんが障がい者であると感じることは?)それは逆に一切、不思議とないですね。(メールなどの)返事も非常にスピーディーに返してくれますので」

 目や指先しか動かせない佐藤さんが、スムーズに仕事を進められる秘密、それは。

佐藤さん:
「自分の視線の動きでパソコンの操作をしています」

 佐藤さんの正面にあるモニターには、センサーが取り付けられています。これが「アイトラッキング」という技術により佐藤さんの眼球の動きを計測。視線でポインタが操作できるというスグレモノなのです。

 クリックは、わずかに動く親指で。こうして、パソコンを自在に操作しています。このツールの導入により、作業スピードが格段に上がったといいます。

佐藤さん:
「速さは大事ですね。障がい者だから仕事が遅いだろうっていうイメージは変えたいなって思っています」

 コミュニケーションはビデオ通話やチャットなど、ネット上で行います。佐藤さんにとっての障がいは、仕事を進めることを阻むものでは無くなりました。

佐藤さん:
「僕はITで人生が変わったって言っても過言ではありません。情報を得られるし、自分から情報発信もできます」

障がい者を援ける(たすける)イノベーション

 いま、技術の進歩が障がい者の皆さんの“可能性”を広げつつあります。

 “次世代型”の車いす「WHILL」は、前輪が横にも回ることにより小回りが利き、オフロード走行も可能。将来的には自動運転技術の搭載を目指しているといいます。

 また、文字が読めない人のためのメガネ「OTON GLASS」は、読みたい文字の方を向くと内蔵したカメラで文字を音声に変換。既に実用化され、クラウドファンディングで普及のための資金を募り、400万円以上の支援が集まりました。

佐藤さん:
「もし僕が40年前とか50年前に生まれていたら、ただベッドの上で寝て過ごしていたという人生だったのかなと思うので」

難病を患いながら19歳で起業、その理由

 昔からパソコンが好きだったという佐藤さん。母・稲枝さんは、好きなものに夢中になる佐藤さんを、献身的に支え続けてきました。

母・佐藤稲枝さん:
「余命は5歳から10歳で亡くなっちゃいますよって言われたので。あの時は目の前が真っ暗で。経験することないですよね、一生のうちに」

 佐藤さんが患う病は「脊髄性筋萎縮症」。全身の筋力が落ちていく難病で、10万人に1人から2人が発症するといいます。治療法は確立されていません。

母・稲枝さん:
「風邪ひいて肺炎になったら、それで命がなくなっちゃうのは十分あり得ました。病気にならずに過ごさせること、それだけ思って育ててきました」

 三男として育った佐藤さん。働くことを決めたのには、親孝行な2人の兄の影響がありました。

佐藤さん:
「(兄たちが)働いて親にご飯をおごってあげたり、ものを買ってあげたり。自分も稼いで、そういう当たり前のことが手に入れたかった。最初はそれだけでした。」

 働くことを決め、一度は就職しようとしましたが、高校3年のころ転機が訪れます。

 障がい者を積極的に雇用している企業のインターンシップに参加した佐藤さん。ある日の帰り際、声をかけてきたのは、車いすに乗った60代の男性。その男性も下半身に障がいを抱えていましたが、佐藤さんよりは軽度のものでした。

60代男性:
「なんでお前は親に送り迎えしてもらってるんだ。親に甘えて、お前みたいな軟弱障がい者、幸せにはなれない」

 この言葉をぶつけられ、障がい者に理解のある職場でも、自分らしく働けないと感じた佐藤さん。当たり前に働くために、決意を固めました。

佐藤さん:
「就職するのはやめようと思って。もう会社を興すことだけしか自分が働く道はなかった」

 19歳での起業は、必然的な選択だったといいます。

自分のための挑戦から、誰かのための挑戦へ

 「働くこと」に自らの価値を見いだした佐藤さん。この春、新たな挑戦です。

 女子大学の非常勤講師に任命され、自分の経験を学生たちに伝える機会を得たのです。4月18日、初めての講義を迎えました。

佐藤さん:
「半端なく緊張してるんですけど、精いっぱい楽しみたいと思います」

 寝たきり社長が学生たちに伝えたかったこと、それは「働くということ」の意味。働くのは、お金プラス「何か」のためであるという佐藤さん。学生たちが考えた、その「何か」とは?

佐藤さん:
「なんのために働こうと思ってますか?」

学生:
「お金プラスやりがい」
「社会貢献、他人からの評価」

 学生たちの答えを聞いた後、佐藤さんが考える「何か」について答えます。

 難病を患いながら働くことを求め続けた佐藤さんが伝えたのは、仕事を通じて誰かと“つながる”喜び。

佐藤さん:
「働くことは、傍(はた)を楽にすること。僕も仕事をしていて、楽しいだけではないし、大変なこともいっぱいある。だけど、仕事を通して関わってくれた人が喜んでくれるっていうのはすごく僕は幸せを感じるんです」

 90分の講義。学生たちは何を受け取ったのでしょうか。

学生:
「お金稼ぐために職探ししている子多いんですが、他にも働くうえで、何かがあるんだなっていうことを知ることができた」
「障がい者だけの会社とか健常者だけの会社じゃなくて、一緒にいろんなことを話し合って考えられる仕事ができたら」

 新たな一歩を踏み出した佐藤さん。今後も、障がいの有無にかかわらず、対等な関係を築ける社会の実現に貢献したいと考えています。

佐藤さん:
「前は障がい者、健常者って完全に2つのカテゴリーに分かれていて、障がい者だから無条件で誰かに助けてもらえるという考えは、僕は違うのかなと思っていて。長い目で見たら絶対いい関係性を築けないんですよ。お互い、ギブ・アンド・テイクでいいじゃないですか」

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