育児と介護を同時に「ダブルケア」 「エンドレス」奔走する娘と、父親が語った感謝 当事者の生活に密着
“育児”と“介護”を同時に行う、「ダブルケア」。当事者を取材しました。
「父親をあやめてしまう一歩手前」
一定数の当事者がいる一方、まだよく知られているとは言えない「ダブルケア」。
中京テレビ「あなたの真ん中取材班」を通じて出会った女性は、過去に経験した過酷な日々を打ち明けてくれました。
女性は同居する父と、離れて暮らす母の介護に加え、子ども2人の育児にも追われていました。
「全部捨ててもうこの状況から逃げ出したい」(ダブルケアを経験した女性)
その大変さから、追い詰められてしまうこともあったといいます。
「本当に父親をあやめてしまう一歩手前までいって。お互いに物を投げあったこともありましたし、一人で抱え込むと自分が追い詰められちゃう」(ダブルケアを経験した女性)
相次ぐ家庭内殺人
2019年は、家庭内の殺人事件が相次ぎました。
6月には、引きこもりがちだったという息子を殺害したとして、元農水次官の男が逮捕される事件が発生。
さらに愛知県豊田市では、三つ子の子育てに悩んだ末、母親が生後11か月の二男を死なせたとして実刑判決が下されました。
1人だけでも大変な、育児と介護。それを同時に行うとなれば、負担はなおさらです。
いま、全国で育児と介護のダブルケアを行う人は約25万人にのぼるとされています。晩婚化や高齢出産の増加などで、今後さらに増えていく見込みです。
「ダブルケア」現状とは
取材班は、今まさに「ダブルケア」と向き合う家庭に向かいました。
三重県川越町に住む西川規衣子さん(33)。
一緒に暮らすのは、娘・優衣ちゃん(11か月)と規衣子さんの父・國男さん(77)です。
國男さんは5年前に脳梗塞で倒れ、運動機能などに障害が残りました。「日常生活全般において全面的な介助が必要」とされる、要介護4の認定を受けています。
介護の資格を持つ規衣子さんは、國男さんを自宅で介護したいと仕事を辞め、夫とも結婚当初から離れ離れで暮らしています。
その後優衣ちゃんが生まれ、育児と介護のダブルケアがはじまりました。
明るい性格の規衣子さんですが、やはり疲れてしまうこともあるそうです。
「気は長いほうだと思うんですけど、何か月に1回か疲れたなというときはあって」(規衣子さん)
「それはお子さん生まれてから?」(取材班)
「そうですね、生まれてからですね」(規衣子さん)
優衣ちゃんが生まれてからは、慣れた介護も思うようにいきません。いろいろなものに興味を持つ優衣ちゃんに、介護中も振り回されています。
「動き回るようになってからは、(だいたい)抱っこかおんぶしています。よく頭ぶつけちゃったりします。ちょっとやりにくい」(規衣子さん)
「エンドレス」のケア
この日は國男さんと優衣ちゃんを連れ、3人でランチに出かけました。
外出準備も、移動も一苦労。ようやく着いた店では、飲み込む力に障害がある國男さんのため、食事にも気をつかいます。
それでも、息抜きのため、進んで外出をしているそうです。
「おいしいもの食べるの好きだし、気分転換にもなるし。外出好きなので苦労してでも来ますね」(規衣子さん)
規衣子さんの1日は、あっという間です。
「きょうも一日お疲れさまでした」(取材班)
「やっと一日が終わったーって感じですね。夜も何回か起きて授乳とかもあるし、(ケアが)エンドレスな感じはします」(規衣子さん)
規衣子さんが一人で落ち着ける時間は、2人が寝てすぐのわずか数十分ほどです。
「何にもしてくれんでええ」父親の感謝
ダブルケアに奔走する日々のなかには、お互いに声を荒げてしまうこともあるといいます。
「父親に『やかましい、黙っといてくれ!』って言われて、私もカチンと来て言い合いになったり」(規衣子さん)
國男さんに聞いてみると、規衣子さんへの感謝の気持ちが聞こえてきました。
「わしには過ぎたくらい良くしてくれるね」(父・國男さん)
「規衣子さんに伝えたいことはありますか?」(取材班)
「いっぱいあるけど、あんまり言わんだわ。何にも自分にはしてくれんでええで。(でも)ありがたいと思っとるね」(父・國男さん)
境遇語り合う「ダブルケアカフェ」
父親と娘のどちらを優先するかなど、ダブルケアに悩みが尽きない規衣子さん。最近、相談できる場所を見つけました。
名古屋市で行われている「ダブルケアカフェ」です。
「同じ境遇の人っていうのは周りにいないんですけど、話聞いてもらっていうのが助かっているなと思います」(規衣子さん)
お互いの悩みを話し合うことで、徐々に表情が晴れやかになる参加者たち。
主催者の杉山さんも、ダブルケアと向き合う1人です。
「いろんな情報を共有したり、思いをわかちあうことで『よし!すっきりした!帰ってからも育児と介護頑張ろう』と思ってもらえる場所にしたい」(杉山仁美代表)
会を終えると、規衣子さんは明るい表情に。
「楽しい会でした。皆さん よく話を聞いてくださるので、気持ちが楽になりますね、毎回」(規衣子さん)
子どもの成長と「ダブルケア」
しかし、不安が尽きたわけではありません。子供の成長とともに、悩みの種は変わリます。
「きのうから(優衣ちゃんが)3秒ぐらい立つように。うれしい反面、自分で歩きたくなったら、ちょっとどうなるでしょうね。もうパーッと走っていかれちゃったら」(規衣子さん)
それでも規衣子さんは、できる限り介護を続けたいといいます。
「父を施設に入れたほうがいいとか、いろいろ周りの人から意見をもらったりはするけど。一緒に できるだけ暮らしたいかな」(規衣子さん)
中京テレビ 「キャッチ!」 12月27日放送より